ロンドン通信
入国編
我々をのせた全日空203便はモスクワを後にいよいよ連合王国の第二の玄関口Gatwick空港1)にやってきました。 飛行機の窓から垣間見える風景は、モスクワ郊外の一面の森林ではなく、どこか牧歌的な田園風景とオモチャのような住宅地です。 絵本に出てくるようなオモチャのような家が本当にあるのを見て『これがよおろっぱなんだあ』と感激してしまいました。 飛行機の旅で最も恐れられている(?)landingもこれで3回目ということもありなれたものです。2) 入国審査は込み合うと聞いていましたので着陸前に降りる用意を 済ませて、シートベルト着用解除と供にEXITに向かってダッシュ!(する必要もないくらいすいていましたけどね。まだ湾岸戦争の影響でしょうか。) ハンガーっていいましたっけ、あの空港の建物から飛行機まで延びている通路のような奴。 なんとあれが壊れていまして、急遽タラップから直接滑走路に降りたつ事になりました。 四月とはいえ英国の風は冷たい。その中をコートの衿を立てて滑走路に降り立つ。これがやってみたかった!
さて、お待ち兼ねの入国審査です。二人の係官が手具脛曳いて待ちかまえていました。
だったらどうということはないのだそうですが、 こちとらwork permitionなしで二年間のビザを貰おうというわけですからちょこっと緊張してしまいます。 頼みの綱はJRDC(新技術事業団)からの所得を証明する一枚の 紙きれとBritish Embassyからの手紙だけです。 そんだけあれば充分だろうって、私の英語力を御存知の方は御判りでしょう。 わたしの前には一人しかいませんでしたからすぐに順番はまわってきました。
「入国の目的と、期間は」とぶっきらぼうに審査官。
「ええっと研究で2年」と私。
「2年?」と目を尖らせる審査官。
「ちょっとこれを見てください。I have been appointed as a researcher for
the joint project by Imperial college and Reseach and Developement Corporation
of Japan.・・・」
はっきりいって書類の棒読みですが、書類の英文の主語をIにかえてimplememtedだとか
establishedだとかJRDCと科技庁の関係だとかむずかしい単語やらむずかしくしか
言えないこととかをばっさりはぶいて簡単な単語だけをそれらしい(英語みたいな)
抑揚で読む、というのは私の得意とするところです。
それが通じたのか(その時は我ながらnaturalにやれたと自負したのですが今は
どうも全然英語になってなかったのではないかと思っています。)
「うん、うん、何か特別な研究のために来たんだね」
とやさしく言うとパスポートにばんばん判子を押し、なにやら書き込んでくれました。
「滞在先は?」(residentという単語は聞き取りにくかった)
「ここ。」といってメモを渡しました。予定しているOak InnというGuest Houseの
住所です。(B&B < Guest House < Hotelという関係にあります。)
それを書き込むと、パスポートを返してくれました。
全部で10分もかかったでしょうか?
あまりの呆気なさに思わず
「これで終り?」
と聞くと、
「いんや、あとで警察で外国人登録をしてね。」
と言われてしまいました。
こうして私は厳しいと言われる英国の入国審査をパスしたのでした。
ふと見るとK氏は審査官相手になにやら説明をしています。
ちょっと待っていたのですが、これはなかなか終りそうにない。
荷物も心配だし、JRDC事務所からI氏という人が迎えに来てくれる事になって
いましたから、「心配させても悪い」と思い、先に荷物を取りにいくことにしました。
M先生お勧めのツートーンカラーのスーツケースに派手なスーツケースバンドは
やはりわかりやすい。感謝、です。
まだK氏は終りません。
「まずはロビーに出て、I氏に事情を説明しようか」と思い
ロビーに出てみたのですが「JRDC」、「I」もしくは「K・垣谷」と書いた
紙をもって待ってくれているはずの人の姿が見つかりません。
焦りましたわさ。「英国Gatwick空港ひとりぼっち」ですもんねえ。
まわりにいた同じ便でやってきた日本人はツアーコンダクターらしきひとに連れられて
どんどんいなくなっていきますし、とうとうその辺に日本人は私だけになって
しまいました。ここは気を落ち着けてコーヒーでも、いや英国だからやはりteaか、
タバコも切れてるから買って吸おうか、でもそんな事をしているうちにI氏や
K氏を見失ってもいけないし、それにまだ買物をする度胸がない!
あとから思えばここでタバコでも買って、コーヒーでも飲んで小銭をつくって
おくべきだったのです。(私の持っている現金の最小紙幣は£10札であった、
というのを覚えてますか?)実はその時、気がついてはいたのです。
このあとハイヤー(全日空のサービスらしいです)で市内にいくからTIPのための
小銭が必要になるだろうという事を。でもI氏が小銭くらい持ってるだろう。
そんなことを考えているうちに構内放送が入りました。
「Mr. KなんたらかんたらMr. Iうんたらかんたら」
私はこの放送をMr. IからMr. Kに宛てたものだとばかり思って、
「これでIさんが捕まる!」と
Informationに飛んで行ったのでした。
Informationにつくなり
「いまのmessageを頼んだ奴はどこにいるんだ?
「我々は他からのmessageを放送しただけで、誰が頼んだかは知らない。」
「Mr. Iがここにやってきてクエストしたんじゃないのか?」
「おまえもMr. Iに用があるのか?」
実はK氏からI氏に宛てた「入国審査が手間取りそうだから待っててくれ」
という伝言だったわけです。
K氏を審査した審査官は非常に念の入った男でした。 彼が大学で研究に従事する事を聞き出した審査官は「健康診断が必要だ。」と判断。 K氏は医者が来るまで待たされていたのでした。
私はロビーで1時間ほども待ったでしょうか。 この時間を2時間にも3時間にも感じたことは言うまでもありません。
ようやくK氏がゲートに現れ、同時にI氏も見つけた我々は 全日空が用意しているリムジンサービスに乗り込んで一路ロンドン中心部に 向かったのです。 ところがです。I氏は我々を車に押し込み、運転手に「・・・まで、詳しくは彼らが 知ってるから。」と言うとそそくさと帰ってしまったのです。 ああ、我々のTIP用の財布が逃げていく、という私の当惑をよそに車はとうとう 動き出してしまいました。 運転手は陽気な黒人のおじさんでしたが、これが飛ばす、飛ばす。 メーターを見ていると70, 80, 90とどんどんスピードがあがっています。 はたと気がついて、「もしかしてこの数字はマイルか?」と聞くと「そうだ」と。 ひぃいぇー、このkm/Hだと1.6倍だから・・・。まったく暴走ハイヤーです。
「小銭持ってる?」と私。 「少しならあるよ。去年来たときの残りが。」(ラッキー!) 「でもスーツケースの奥ですぐには出せないんだ。」(この、どあほ!) 日本語だと運転手には判らないのでこういう相談には便利です。 ただTIPという主語がお互いに使えませんが。
1.TIPなんかしらんぷりする。
2.なんとかして小銭をつくる。
3.潔く£10をTIPとしてあげる。
1が最も簡単で、あとから思えばこれで何の問題もないのですが、
やはりこれはこれで度胸がいります。
2は運転手さんに頼んでどこかで停めてもらい、タバコとか新聞とか適当なものを
買って小銭をつくる。でもどう言って停まってもらおうかしらん。
3は大阪人(9年しか住んでいませんが)のプライドが許さない。
結局は、見栄、語学力、大阪人根性のせめぎあいです。
大阪人根性が負けました。
£10紙幣を受け取った運ちゃんはとってもうれしそうに(そらうれしいだろ、 2300円だぜ!)“Thank you”というとスーツケースを建物の中まで運ぶのを 手伝ってくれました。 Hotelでなくて良かった。 Hotelだったらこの後もポーターだ、なんだと、かかりますからねえ。
こうしてようやくロンドン中心部(ロンドン中心部の定義には諸説ありますが ここでは地下鉄のZone1を中心部と呼ぶことにします。ですから我が家は中心部に あることになります)にやってきました。